2つの隕石のダメージから立ち直った我々は、いつしか夏を迎えていました。
晩夏から秋にかけて、制作はついに終盤戦へと突入したのです。
さて。この頃になると、我々チームと並行して、新しいスタッフが動き始めます。
《バグチェッカー》と呼ばれる連中。
"バグ"という専門用語もずいぶん日常的になってきましたが、要するに、ゲームの構造上の不具合やプログラムミスのこと。
バグチェッカーとは、制作途中のゲームをプレイして、こうしたミスや不具合を見つけだすのが専門のプロ集団なのです。
『画面が切り替わった瞬間にAボタンを押すと、一切の操作を受けつけなくなる』
『法廷記録を開いてすぐ閉じると、一瞬画面が真っ暗になる』
‥‥制作だけで精一杯の我々スタッフに代わって、あらゆる状況を想定した細かいチェックが行われます。
バグには、あるポイントに30分の1秒のタイミングで特定の操作をしなければ発生しないものなど、特殊なケースが多々あります。
そんなシビアな不具合を見つけだしてくれる彼らを、あえて不必要にカッコよく表現するならば、
"荒涼とした電脳のジャングルに放たれた野獣を狩る孤高のハンター"
といったところでしょうか。
彼らによって発見されたバグは、リストにまとめられ、我々のところに届きます。
担当スタッフが修正作業をして自分の名前をそのリストに書き込み、チェッカーの手で最終確認。
こうして1つひとつ、バグは姿を消していきます。
表舞台には出てきませんが、彼らの影の力に支えられて、ゲームは完成するのです。
この場を借りて、お礼を言わせていただきます。
お世話になりました。いつも、どうもありがとうございます。
‥‥と、言うのも‥‥
ぼくには、特にお礼を言わなければならない事情があるのです。
『逆転裁判2・バグリスト』には、約1000個のバグが整然と並んでいます。
そのリストの"修正担当者"サインを見ると‥‥半分以上が《タクミ》。
つまり逆転裁判2のバグの大半は、ぼく自身がせっせと生み出したものなのです。
誤字。
シナリオを担当している以上、どうしても生まれてしまうミス。
これだけで、200個ぐらいあったような。
それ以外にも、セリフが表示されるスピードや"間"、登場人物の動作、フェードイン・アウトなど画面演出のタイミングや、音楽・効果音の設定ミス‥‥。
そして決定的なのは、ストーリー上のムジュン点の指摘。
これはもう、まさに"リアル・逆転裁判"。
『第○話の○○○のアリバイは成立しません!』
のヒトコトで、シナリオの大改造を余儀なくされたことも‥‥。
ゲームが完成するまでに、こうした地道な作業は不可欠です。
これからも、彼らにはお世話になるでしょう。
‥‥今後とも、よろしくおねがいします。
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