■第9回:“再会、そして逆転” ■

『逆転裁判2』制作が決まった際、いくつか“やりたい”と思った題材がありました。
その1つが“霊媒をメインテーマとして扱った事件”。

前作『逆転裁判』に対する反響で、ちらほら見かけたのが、
「“霊媒がアリ”という設定は、ミステリーとしてルール違反だ!」
というご意見でした。
「ミステリーに、リアリティは絶対条件」
‥‥そう思っているヒトは、意外に多いようです。

しかしぼくにとってミステリーは、
「“美しいロジックによる驚き”さえ与えてくれれば、あとはなんでもアリ」
したがって、厳守すべきルールは、ただ1点。
「そのロジックを支える“手がかり”は、キチンと提示する」

‥‥前置きが長くなりましたが、《再会、そして逆転》は、こんな自分のミステリー観を主張、実践するために作った、ちょっとわがままなエピソードです。
結果は、いかがだったでしょうか。‥‥正直なところ、やや反省の残るデキでしたね。

今回は、事件の“見せ方”に苦労しました。
最初の構想では、真宵がテレビのスペシャル番組で霊媒をする、という設定でした。
したがって、事件の舞台はテレビ局のスタジオだったのですが‥‥どうもピンと来ない。
前作のトノサマンのエピソードと似てしまうから、かもしれません。
舞台選びには、いつも苦しみます。今回も“真宵のふるさと”というアイデアにたどりつくまで、かなり難航しました。

お気づきの方も多いと思いますが、“倉院の里”という名称は、有名な“クラインの壺”からとっています。《内側》と《外側》の概念が存在しない不思議な壺が、“霊媒”のイメージにピッタリだな、と思ったわけです。

また、このエピソードでは、新しいレギュラーキャラクターが登場します。
綾里 春美。
最初は、真宵と同年代の、いわば“ライバル”という設定でした。
このエピソードだけに登場させる予定で、
『ホーッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホ』
と笑う、とってもイヤな性格のセンパイ。
ところが、前作のデザイナーに相談した結果、ドラマティックに若返ることに。
そして、8歳の女の子の気持ちになってシナリオを書いてみると‥‥妙に愛らしくなってしまい、その結果、他のエピソードにも登場することになりました。



■第9回《裏》■

“再会、そして逆転”


「ミステリーに、リアリティは絶対条件」
‥‥そう思っているヒトは、意外に多いようです。

真 宵 :
そもそも、成歩堂 龍一って名前にリアリティを感じないな、あたしは。
成歩堂 :
しかたないだろ。親の代から“成歩堂”なんだから。
真 宵 :
《高橋 和夫》とかにすればよかったのにね。
成歩堂 :
‥‥コメントしづらい名前だな。
真 宵 :
あのさ。こないだあたし、行ってみたんだよ。ホンモノの裁判。‥‥もう、ビックリしちゃった!
成歩堂 :
へえ。‥‥みんな静かだし、木槌をたたく裁判官もいなかっただろ。
真 宵 :
そんなの、大したことじゃないね。‥‥なんと! BGMがないんだよ!
成歩堂 :
あたりまえだろ!
真 宵 :
あれじゃあ盛り上がらないよ、なるほどくん。
成歩堂 :
真宵ちゃんを楽しませるためにやってるワケじゃないからな、裁判は。
真 宵 :
あたし、すぐ寝ちゃったもん。
成歩堂 :
‥‥何しに行ったんだよ‥‥。

‥‥前置きが長くなりましたが、《再会、そして逆転》は、こんな自分のミステリー観を主張、実践するために作った、ちょっとわがままなエピソードです。結果は‥‥いかがだったでしょうか。
‥‥正直なところ、やや反省の残るデキでしたね。

成歩堂 :
これってケッキョク、自分の“ミステリー観”の押しつけだよな。
真 宵 :
しかも、やや反省してるし。
成歩堂 :
メイントリックに不満があるみたいだね。
真 宵 :
あたし、トリックなんてどうでもいいけどな。お話がおもしろければ。
成歩堂 :
うーん‥‥とにかくタクシュー、推理小説が大好きみたいだからね。小さいころから。
真 宵 :
今までに、自分で何か書いたことあるのかな。
成歩堂 :
中学生のころ、夏休みの自由作文で推理小説を書いたって。
真 宵 :
‥‥ずいぶん古い話だね。
成歩堂 :
『名探偵の犯罪』‥‥原稿用紙5枚。
真 宵 :
しかも短いよ。
成歩堂 :
なんでも、人類が滅亡しちゃうっていう事件でね。
真 宵 :
へええ。‥‥でもそれ、だれが事件のナゾを解くの? 滅亡したんでしょ? 人類。
成歩堂 :
‥‥‥‥‥‥。詳しい話は、ぼくも知らないんだけど。
真 宵 :
で? で? 他にはないの?
成歩堂 :
次は、高校の授業中、ヒマつぶしで書いた法廷小説があるよ。
真 宵 :
ほ、法廷小説? まさか、それが『逆転裁判』の原型に‥‥
成歩堂 :
『超・ラッキー弁護士タケ』‥‥学校で配られたプリントの裏、1枚。
真 宵 :
‥‥さらに短いよ。
成歩堂 :
反則まがいの強運で無罪を勝ちとる、気弱な弁護士の物語。
真 宵 :
どこかで聞いたことのある主人公だね、なるほどくん。
成歩堂 :
‥‥で、現在にいたる、と。
真 宵 :
もう終わり?
成歩堂 :
いちおう『ラッキー弁護士』は好評につき、シリーズになったらしいよ。
真 宵 :
うう‥‥もっと華麗な過去を期待したんだけどな。

また、このエピソードでは、新しいレギュラーキャラクターが登場します。
綾里 春美。


真 宵 :
かわいいよね! はみちゃん。
成歩堂 :
あの髪型にたどりつくまで、デザイナーは眠れぬ夜を、涙で枕を濡らしたってウワサだよ。
真 宵 :
苦労したんだねー。でも、そのおかげで、スナオで礼儀ただしい子になったじゃない。
成歩堂 :
あの丁寧なしゃべり方は、タクシューのコダワリがあったんだって。
真 宵 :
どういうコト?
成歩堂 :
もともとは、千尋さんのしゃべり方だったんだよ、あれ。
真 宵 :
え、お姉ちゃんの?
成歩堂 :
『逆転裁判』第1話の千尋さん、最初、ヤケに丁寧にしゃべっていてさ。ビビっちまったよ、ぼく。
真 宵 :
はああ‥‥
成歩堂 :
あまりにも他人行儀すぎる、ってチームのみんなに言われて、ボツにしたんだって。
真 宵 :
そのアイデアを、はみちゃんで復活させたワケだ。なかなかしつこいね、タクシューも。
成歩堂 :
前回のコラムにも書いてあったろ。
『死ぬ思いでヒネり出したネタは、どんなささやかなものでも必ず使う』って。
真 宵 :
あれ、ホンキだったんだ。
成歩堂 :
‥‥とにかく、それで千尋さんのセリフ、ゼンブ書き直したんだよ。
真 宵 :
なるほど‥‥。
成歩堂 :
だけど、じつは直し忘れた部分が2、3カ所あるんだって。部分的だけど、丁寧な千尋さんが残ってるらしいよ。‥‥ちょっとだけ。
真 宵 :
へえ! 今度、探してみようっと。


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