それでは、前回のつづきから始めましょう。
制作中、我々が直面した2つの大災害。
それはまさに"隕石級"と言って過言ではない巨大な破壊力をもって、単調になりがちな我々の日常に、強烈すぎる刺激を与えてくれたものです。‥‥しかも、2回。
最初の隕石は、制作開始直後、さっそく落っこちてきました。
いわゆる"御剣大人気事件"です。
御剣怜侍は前作『逆転裁判』で、ライバルの天才検事として颯爽と登場しました。
実は今回『逆転裁判2』のシナリオを書いたときも、最初はこの御剣が検事として法廷に立っていたのです。
‥‥しかし。
『逆転裁判』が発売されて、遊んでくれた皆さんからの反響が届いてみると‥‥この男、異様に人気が高い。
それはそれでよかったのですが、ここに1つだけ、問題が。
御剣が、主人公である成歩堂と闘う以上、彼に勝ち目はありません。
当然、連戦連敗。どこがどう天才検事なのか、わからないありさま。
シナリオの執筆当時から"ちょっとカワイソウだよなあ"と感じてはいました。
それが、ここへ来て決定的な危機感に。
"御剣をもっと大切にしよう"
その結果、新たな検事として狩魔 冥が生まれたわけです。
おかげでシナリオはほとんど書き直すハメに。
‥‥まあ、これは結果的に正解でした。狩魔 冥はぼくにとって、いろんな意味で今回、イチバンの収穫でしたから。
2個目の隕石が落っこちてきたのは、3つ目のエピソードを作っていた頃でした。
いわゆる"圧倒的容量不足事件"です。
「巧さん、大変です!」
ある日、プログラマーが青い顔をして詰め寄ってきました。
どんなに楽天的な人間でも、あのときの彼の顔色から良いニュースを期待することは不可能でした。
‥‥ロムカートリッジの容量が足りない!
ゲームのカートリッジには当然、詰め込めるシナリオの量に限界があります。
どうやら我々が思い描いていた見積もりは、かなりアマかったようでした。
急遽、1話ぶん削ることに。これには目の前が真っ暗になりました。
せっかく書いたシナリオを削ることもショックでしたが、何より、それによって物語全体の構成が致命的に破壊されてしまったからです。
おかげでまた、シナリオ全般にわたって伏線の張り直しをするハメに。
‥‥まあ、これも結果的に正解でした。もう1話あったら、きっと長すぎて投げ出す人が続出したでしょう。
さて。
今、こうして振り返ってみると、1つの疑問が。
『死ぬ思いで書いた、あの"原作"版のシナリオって、イミあったのか‥‥? 』
‥‥考えないことにしよう。
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