■第11回:“さらば、逆転” ■

このエピソードで扱ったメインテーマは、前作の最終話を書いているときに思いつきました。
『逆転裁判』の根底を揺るがしかねない重大なテーマだったので、シリーズが完結するときの、本当の“最終話”で使おう、と思っていたのですが‥‥。

《ネタは常に、使い尽くせ》‥‥これは、個人的に鉄則です。
『逆転裁判3』が制作できるかどうかわからないし、もしかしたら今夜、モチをノドに詰まらせて死ぬかもしれません。モチは詰まっても、せめてネタは吐き出しておきたい。
それに‥‥締め切りは、もう目の前。他のネタを考えているヒマもありませんでした。

このエピソードは、ぼくにとって『逆転裁判2』の集大成です。
それと同時に、シナリオ制作で味わえる、あらゆる苦しみの集大成でもありました。
まず、このメインテーマを最大限に生かすためのプロット。
現在の形にたどりつくまで、3つほど別バージョンが存在します。
また、シナリオの構成上、2つの事件を並列して展開させなければならず、これも初めてのことだったので、それなりに苦しみました。
しかし‥‥最大の困難は、“原作”版のシナリオがいったん完成してから、やってきたのです。

‥‥以前、このコラムで紹介した《メテオ兄弟》を覚えているでしょうか。
2つの巨大隕石によって、『逆転裁判2』の原作シナリオには、2つの大きな変更点がクレーターとして刻まれました。
“御剣大人気事件”による、新検事・狩魔冥の誕生。
“圧倒的容量不足事件”による、シナリオ1話ぶんのカット。

こんな大きな変更が‥‥しかも2つ。
すべての問題を最終話まで放置していたため、今やその圧倒的影響力は、まさにブラックホール級。希望の光さえ見えません。
ギュウギュウにネジれ果てたシワ寄せが、ついに逆巻く怒濤の大津波となって、海原を迷走する我が小舟を飲みこんだのです。‥‥この表現に、いっさい誇張はありません。

2話ぶんかけて、じっくり語るつもりだった御剣検事の物語を圧縮して詰めこんで、悩める狩魔 冥に“答え”を与えて‥‥と、悪戦苦闘するうち、さらに問題が勃発。
あまりに急いで書いた“原作”のシナリオ‥‥そこには、作者の意図しない“ムジュン”が人知れず、純粋培養されていたのです。
シワ寄せのブラックホールの次は、ムジュンの核地雷原。
数えてみると両手で足りなくなり、両足を使っても足りなくなり‥‥ケッキョク、22個のムジュンを修正するハメに。

このエピソードで、ぼくは完全燃焼しています。‥‥というか、燃え尽きました。
まさに、一片の後悔もありません。‥‥というか、しばらくは振り返りたくない。
今、このコラムを書いていても、イヤなアブラ汗がにじんできます。

‥‥というわけで。
本当は、このエピソードの内容について、いろいろお話ししようと思っていたのですが‥‥サワリの部分だけで、もう、おなかいっぱいになってしまいましたね。
あとは、《裏》編の2人に任せることにしましょう。



■第11回《裏》■

“さらば、逆転”


『逆転裁判』の根底を揺るがしかねない重大なテーマだったので、シリーズが完結するときの、本当の“最終話”で使おう、と思っていたのですが‥‥。

真 宵 :
いやー、でもまあ、よかったよね。
成歩堂 :
ナニが。
真 宵 :
ホラ。ヒーロー・オブ・ヒーローのグランプリ。《トノサマン・丙!》がもらえてさ。
成歩堂 :
‥‥まさかあのときは、こんなヘビーな事件になるとは思わなかったよ。
真 宵 :
あたし、今回の事件はほとんど知らないんだけど、また会えたんでしょ?
ムカシの知り合いに。
成歩堂 :
宇宙人に光線銃向けられたよ。
真 宵 :
ホント、意外にカオが広いよねー、なるほどくん。
成歩堂 :
でもさ。あのオバチャンのデザイン、けっこう時間がかかったらしいよ。
真 宵 :
え! 丸を描いて終わりじゃない、あんなの。
成歩堂 :
やっぱり、ホラ。デザイナーって、凝っちゃったりするワケだよ。
イワモト :
「どうですか、巧さん! デザイン、考えてみたんですけど」
タクミ :
「‥‥なんだよ、この宇宙刑事は」
イワモト :
「だから、オバチャンですよ」
タクミ :
「‥‥ダメだよ。ちょっとカッコイイから」
イワモト :
「いいじゃないですか、カッコイイほうが!」
タクミ :
「いいか、ミヤモト。職業的良心‥‥そんなもの、ドブに捨てちまえ」
イワモト :
「‥‥ダレですか、ミヤモトって‥‥」
タクミ :
「金魚バチでもかぶせとけばいいから。‥‥ホレ、こんな感じ」

‥‥最初から言えよ、って感じだね。
真 宵 :
はああ。タイヘンだよねー、ミヤモトさんも。
成歩堂 :
タクシューのムチャに負けないで、がんばってほしいね。ミヤモトさん。

数えてみると両手で足りなくなり、両足を使っても足りなくなり‥‥ケッキョク、22個のムジュン点を修正するハメに。

真 宵 :
22個のムジュン、ってスゴいよねー。たとえば、どんなの?
成歩堂 :
『王都楼、大スターにしてはあまり大事に扱われていない』とか、
『休憩時間中、王都楼が○○○○を○○ているという設定はマズい』とか、
『荷星が○○のことを証言するのはマズい』とか、
『証拠品○○○を入手させるタイミングがマズい』とか、
『○○○が盗まれたことがわかるのは、○○○○○でないとマズい』とか、
『○○○の○○が○○○で、その○に○○が○○○○○のはオ○シイ』とか
‥‥こんな感じで、ズラリ22個。
真 宵 :
伏せ字ばっかりで、ほとんどイミがわからないよ。
成歩堂 :
ハッキリ言っちゃうと、ネタバレになるから。
真 宵 :
それに、なおってないヤツがあるような‥‥。
成歩堂 :
まあ‥‥タクシューもチカラ尽きて、見逃したのもあるみたいだね。

このエピソードで、ぼくは完全燃焼しています。‥‥というか、燃え尽きました。
まさに、一片の後悔もありません。‥‥というか、しばらくは振り返りたくない。


真 宵 :
かなりマイってるみたいだね、タクシュー。
成歩堂 :
最後の最後までドタバタしてたからね、このエピソードに関しては。
特に‥‥‥‥いや、いいや。なんでもない。
真 宵 :
え! ナニよそれ! 言いかけたことは、ちゃんと最後まで言う!
成歩堂 :
‥‥‥‥‥‥ダメだ。やっぱり言えない。
真 宵 :
どーしてよ!
成歩堂 :
いや、ホラ。これから『逆転裁判2』を遊ぶヒトもいるだろ。先にコレを読んじゃったら、もうオシマイだからなあ。
真 宵 :
うーん‥‥まあ、そうだけど。でもさ。それを言い出したら、このエピソードのコト、なんにもしゃべれないよ。
成歩堂 :
そうだよなあ‥‥なんせ最終話だから。何を言ってもネタバレになっちまう。
真 宵 :
しかたないねえ。じゃ、今回はテキトーなコト話して、お茶をニゴそうよ。
成歩堂 :
テキトーなコト‥‥って‥‥いきなり言われても、思いつかないぞ。
真 宵 :
じゃあ、じゃあ、《裁判所の7不思議》なんてどう?
成歩堂 :
なんだよそれ。
真 宵 :
なるほどくん、あれだけ裁判所に出入りしてるんだから、あるでしょ?不思議の7つぐらい。
成歩堂 :
そうだなあ‥‥。あ! そうだ。実は、前から不思議に思ってたんだけど‥‥
真 宵 :
お。なになに?
成歩堂 :
なんで《“7”不思議》なんだろう。7にこだわること、ないのに。
真 宵 :
‥‥そこから入るか‥‥
成歩堂 :
ホントは3つぐらいしかないのに、ムリヤリ水増ししたりして。
真 宵 :
それはいいから、裁判の話をしようよ。‥‥あ、たとえばアレ。
証拠を提出するとき、なるほどくん『食らえ!』って叫ぶでしょ。あれって、ホントに投げつけてるのかな。
成歩堂 :
そんなワケないだろ。演出、ってヤツじゃないかな。
真 宵 :
そうだよね。ぜーんぶ裁判長のアタマに当たってるもん。
成歩堂 :
あれは死ぬって。‥‥そもそも、あの裁判長こそが最大の不思議だよな。
真 宵 :
名前もトシも‥‥だれも知らないんだよね。
成歩堂 :
こないだ休憩室で、そっとヒゲをはずしてるのを見たよ。
真 宵 :
え! あれ、ツケヒゲだったの!
成歩堂 :
その次に、歯もはずしてたね。がぼっ、て。
真 宵 :
い、入れ歯?
成歩堂 :
その次に両目をくりぬいて、やわらかい布できゅきゅっ、てみがいて。
真 宵 :
‥‥ふええええ。
成歩堂 :
最後にアタマのフタをかぱって開けて、電池入れてた。
真 宵 :
ウソだあ!
成歩堂 :
いやあ、ホントに不思議だね、裁判長。
真 宵 :
ムリヤリ不思議にしないの! ‥‥で? 今、いくつめかな。不思議。
成歩堂 :
もう7つ言っただろ。
真 宵 :
え‥‥?
成歩堂 :
『くらえ』と、裁判長の名前とトシ。
真 宵 :
あと4つは?
成歩堂 :
ヒゲと入れ歯と目と電池。
真 宵 :
‥‥もういいよ、なるほどくん。

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