■第10回:“逆転サーカス” ■

個人的に、このエピソードは『逆転裁判』として、ほぼカンペキ‥‥理想の形に仕上がったと思っています。シリーズ中、1・2を争う“お気に入り”ですね。
(1カ所だけ、どうしてもチカラが及ばない部分が残ってしまったのですが‥‥)
第3話ともなると、しだいにアタマもアイデア出しに慣れてきたせいか、プロットも比較的スムーズに組み上がりました。

“サーカス”と“マジック”‥‥
これは、『2』の制作が決まったとき、ゼッタイに実現させようと思っていた題材です。
前作の“トノサマン”の破壊力がスゴすぎたので、それを超えるためならば、あらゆる反則ワザを駆使するカクゴでした。
シナリオ作成にあたって、我々がまず最初にやったのが‥‥決死のサーカス見物。
我々は異様なテンションで、ステージに繰り広げられる妙技に酔いしれたのです。
その成果は‥‥立見サーカスのテントの背景に、いちおう活かされました。

プロットづくりがスムーズだったせいか、このエピソードでは、本筋とは関係ない“物語”が2つほど、放り込まれています。
その1つ目は、“あるプロフェッショナルの物語”。主役はピエロのトミーです。

ぼくは、“何かひとつのモノに打ち込んでいるヒト”が好きです。
自分の道を信じて、最後までそれを貫いて死んでいく‥‥これは、カッコイイ。
ただ‥‥痛いほどの純粋さは、時に、ある種コッケイに見えてしまうことがあります。
‥‥まさに、それがトミーの生きザマ。
彼が飛ばす枯れたギャグや、部屋に転がっているオブジェの数々‥‥書いていて、なぜか哀しくなって、涙があふれてきました。‥‥ぼくだけですね、たぶん。

2つ目は“バラバラな連中が1つになる物語”。サーカスの連中全員が主役です。
我々ゲーム制作者は、基本的に“チーム”として1つの作品を創りあげます。
しかし、スタッフの誰もが、自分の好きなメンバーを集めて、好きなゲームを作っているかというと‥‥そんなハズはありません。
ある者にとっては、“集められ”“作らされる”‥‥それが『会社』であって、当然のコトですね。
そんな中で、チームが本当に1つにまとまるのは、なかなかムズカシイ。
特に大きなチームになってしまうと、1つになるなんて、あり得ないのかも知れません。

『逆転裁判』チームは、総勢で10人ていど。“チーム”をハダで感じることのできる、ギリギリ最大数でした。
‥‥だからこそ、そういう物語にココロ惹かれたのでしょう。

トリックのバカバカしさや、登場人物のムチャさ加減。
『逆転裁判』だからこそ可能なミステリーも、いちおう完成形を見たように思います。
次回はいよいよ最終話。
前作の制作・終盤ごろから温めていた、プロットの最終兵器を取り出すときが、ついにやってきました。



■第10回《裏》■

“逆転サーカス”


個人的に、このエピソードは『逆転裁判』として、ほぼカンペキ‥‥理想の形に仕上がったと思っています。シリーズ中、1・2を争う“お気に入り”ですね。

真 宵 :
いやー、スゴかったね、マックス。なんたって、飛んじゃうんだから。空を!
成歩堂 :
そうだね。‥‥あ。でも、実はマックスの得意芸って、最初はゼンゼンちがうモノだったんだよ。
真 宵 :
え! 空を飛ぶマジックじゃなかったの?
成歩堂 :
最初はね。箱に詰めた人体をまっぷたつに切る手品だったんだって。
で、ジッサイにマックスがまっぷたつに切っちゃって捕まる、っていう。
真 宵 :
ひゃあ‥‥ソーゼツだねえ。
成歩堂 :
でもね。ある日、チームのスタッフにその話をしたら‥‥
タクミ : 「‥‥とまあ、そんな話を考えてるワケだ。‥‥どう思う?」
イワモト :  「へえ‥‥。それはマズいんじゃないですか」
タクミ : 「‥‥なんでよ」
イワモト :  「最近、それと似たようなストーリーの推理小説、読みましたから」
タクミ : 「なんだよそれ! オマエがまっぷたつに切られて死ね!」
イワモト :  「ぼ、ボクのせいですか‥‥」

真 宵 :
はああ‥‥そりゃあ、しかたないねー。
成歩堂 :
で、次にタクシューが考えたのが、水中から脱出する魔術師の話。
真 宵 :
それは、どんなの?
成歩堂 :
水槽に閉じこめられた魔術師が脱出するんだけど、
なぜかシッパイして死ぬ、っていう。
真 宵 :
ひゃあ‥‥ソーゼツだねえ。
成歩堂 :
でもね。次の日、チームのスタッフにその話をしたら‥‥
タクミ :
「‥‥とまあ、そんな話に変えてみたワケだ。‥‥どう思う?」
イワモト : 
「へえ‥‥。それもマズいんじゃないですか」
タクミ :
「‥‥なんでよ」
イワモト : 
「ムカシ、それと似たようなストーリーの映画、
見たことありますから」
タクミ :
「なんだよそれ! オマエがおぼれて死ね!」
イワモト : 
「ぼ、ボクのせいですか‥‥」

真 宵 :
‥‥なかなかタイヘンだねえ。事件を考えるのも。

“サーカス”と“マジック”‥‥
これは、『2』の制作が決まったとき、ゼッタイに実現させようと思っていた題材です。

成歩堂 :
マジシャンだからね、タクシュー。
真 宵 :
なにそれ。
成歩堂 :
学生時代、マジッククラブで練習してたって。
真 宵 :
手品を?
成歩堂 :
就職活動の時、唯一の武器だったらしいよ。
真 宵 :
手品が?
成歩堂 :
‥‥ジッサイ、合格もしたし。
真 宵 :
手品で?
成歩堂 :
ただ、入社してからは、それに苦しめられるコトになるんだけど。
真 宵 :
手品に?
成歩堂 :
‥‥うっとうしいから、やめろよ。そのリアクション。
真 宵 :
あはは。ゴメン、ちょっとおもしろくなっちゃって。
‥‥でも、どうして手品に苦しめられるの?
成歩堂 :
“手品のタクシュー”ってキャッチフレーズで売り出しちゃったからね。
何かというとやらされるワケだ。
真 宵 :
そりゃまあ、しかたないよねー。
成歩堂 :
でも、彼も入社して9年目だから。さすがにネタが切れて。
『シナリオのネタと手品のネタ‥‥ダブルでボクを苦しめないで!』
って。‥‥忘年会の時期なんか、特に。
真 宵 :
サラリーマンの悲哀、ってヤツだね。
成歩堂 :
‥‥ちょっと、ちがうかな。

ただ‥‥痛いほどの純粋さは、時に、ある種コッケイに見えてしまうことがあります。
‥‥まさに、それがトミーの生きザマ。


真 宵 :
トミーさんのギャグ‥‥っていうかダジャレ、たしかにキョーレツだったよねえ。
成歩堂 :
ただね。タクシュー自身は、実はあのダジャレをホンキで『おもしろい』って思ってるんだって。
真 宵 :
『中国へ行っチャイナ』だよ?
成歩堂 :
‥‥中学2年生の時、初めて聞かされて衝撃を受けて、以来ずっと温めていたらしい。
真 宵 :
『このブドウ、1つぶどう?』だよ?
成歩堂 :
‥‥それは大学3回生の夏、だったかな。
真 宵 :
おもしろいんだ‥‥。
成歩堂 :
ベストセレクションだ、って豪語してたからね。
真 宵 :
やっぱり、ダジャレが好きなんじゃない、タクシュー!
タクミ :
ゴメン! 実は‥‥大好きなんだ! ダジャレ‥‥
真 宵 :
‥‥? 何か聞こえなかった? なるほどくん。
成歩堂 :
さあね。気のせいじゃないかな。

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