■第2回: 逆転裁判 ■

『逆転裁判 2』の話に入る前に、前作について触れておきたいと思います。

1年前、2001年10月12日。『逆転裁判』が発売されました。
そして、みなさんからの反響が続々とカプコンに寄せられたわけですが‥‥
感激しました。
われわれ逆転裁判チームのもとに届いたメッセージは、どれも制作の苦労を癒してあまりある、とてもあたたかいものばかりだったのです。

とりわけうれしかったのは、ふだんゲームをしない方からのお便りが目立ったこと。
「ムスメから借りて最後まで遊びました。たいへんおもしろうございました」
「友だちからムリヤリ借りさせられましたが、ハマっちゃいました!」
といった内容です。
‥‥借りずに買っていただければ、さらにうれしかったかもしれません。

乱暴な言い方をしてしまうと、ぼくにとって『逆転裁判』は、むしろ“ゲーム”よりも“ミステリー”であることのほうが重要でした。
‥‥ゲームをまったく知らない人でも気軽に遊べて、ミステリーのおもしろさを満喫できる作品にしたい‥‥
そのために、ルールや操作は極力シンプルにして、システムのメッセージも、なるべく日本語を使うようにしたのです。

じつはゲームシステム考案中、ぼくは常に、ある人物を念頭に置いていました。
実家にいる母親です。
母は、小説は読みますが、なぜか漫画の読み方がわからないそうです。
当然、プロ級の機械オンチです。
ビデオ録画の成功率は、スランプまっただ中のプロ野球選手なみ。
以前、両親にゲームマシンをプレゼントしたのですが、父親が遊んでいた将棋ゲームのCD−ROMの上から重ねて麻雀ゲームをセットして電源を入れ、
「麻雀やろうとしたら将棋が始まったぁ!」
と大騒ぎするような、ある種ツワモノです。

‥‥こんな筋金入りの母親でも楽しめる作品にしよう!
そんな個人的なスローガンのもと、ついに完成した『逆転裁判』。
さっそく発売日に実家に送りつけました。
いろいろあったようですが、幾多の困難を乗り越えて、この春、無事エンディングにたどりつくことができたようです。

全国で、似たようなドラマが展開していたことを想像すると、それはそれで楽しいですね。



■第2回《裏》

逆転裁判


成歩堂 :
‥‥じゃ、さっそく今回もつっこんでいこうか。
真 宵 :
さすがなるほどくん。目がイキイキしてきたね!

1年前、2001年10月12日。『逆転裁判』が発売されました。
そして、みなさんからの反響が続々とカプコンに寄せられたわけですが‥‥

真 宵 :
ホント、うれしかったよねー。
成歩堂 :
そうだね。ありがとうございました。
真 宵 :
あたしにファンもできちゃってさ。みそラーメン1年ぶん、送ってくれた人もいるんだよ。
成歩堂 :
へえ‥‥そりゃスゴいな。
真 宵 :
ま、あたしに言わせりゃ、あんなの半月ぶんだけどね。
成歩堂 :
食いすぎなんだよ、真宵ちゃんは‥‥。

われわれ逆転裁判チームのもとに届いたメッセージは、どれも制作の苦労を癒してあまりある、とてもあたたかいものばかりだったのです。

真 宵 :
こんなコト言ってるけど、中にはヘンなのもあったんじゃないの?
成歩堂 :
そりゃまあ、そうだろうね。変わりダネでは、こんなのがあるよ。
《ゲームをやって、とても感動しました》
真 宵 :
お。いいじゃない。
成歩堂 :
続きがあるんだよ。
《携帯ゲーム機で、こんなにキレイに半透明機能が使えるなんて、ビックリしました》
真 宵 :
‥‥どういうこと?
成歩堂 :
なんでも、セリフが表示されるウインドウが半透明だったのに感動したらしい。
真 宵 :
はあ‥‥地味な感動だね。
成歩堂 :
まあ、ヒトそれぞれだから。それより、問題はこっちだよ。
《成歩堂が“意義あり!”って叫ぶのがカッコよかった》
‥‥これ、けっこう多かったんだけど。
真 宵 :
? それがどうかしたの?
成歩堂 :
“意義”じゃなくて“異議”なんだよな。
真 宵 :
ま、そうだけど。
成歩堂 :
ゲーム中に100回は叫んでたぜ。あれはなんだったんだ! って、ちょっとムナしくなっちまった。
真 宵 :
ま、まあまあ。いいじゃないの。
成歩堂 :
チーム内のサウンド担当スタッフが作った効果音のリストにも
《成歩堂・意義あり》
なんて書いてあってさ。ヒトがノドをからして叫んでるんだから、ちゃんと聞いてほしかったよ‥‥。
真 宵 :
な、なるほどくん! 元気出して!
じゃあ、今ここで見本みせてよ。ホラ、ホラ。『意義ありぃ!』って。
成歩堂 :
‥‥ワザとかい、真宵ちゃん。

さっそく発売日に実家に送りつけました。
いろいろあったようですが、幾多の困難を乗り越えて、この春、無事エンディングにたどりつくことができたようです。

真 宵 :
わあ。いい話だねえ、なるほどくん。あたし、親子モノって弱いんだよねー。。
成歩堂 :
よく読めよ。“この春”だぞ。発売から半年もたってる。
真 宵 :
あれ。ホントだ。
成歩堂 :
“いろいろあった”のヒトコトでかたづけてるけど、スゴいドラマがあったみたいだよ。この半年間。
真 宵 :
ドラマって?
成歩堂 :

実家からほぼ毎日、ひっきりなしに電話がかかってきたんだって。
‥‥こんな感じで。

 
母 親 : 「詰まったよ」
息 子 : 「また? 今度はどこ」
母 親 : 「ええと‥‥《逆転姉妹》で、死体が見つかったとこ」
息 子 : 「冒頭じゃないかよ!
(息子、かたわらの攻略資料を取り上げる)
ええと‥‥事務所の電話は調べた?」
母 親 : 「でんわ‥‥?」
息 子 : 「ホラ、テーブルの上に電話機があるでしょ?」
母 親 : 「‥‥‥‥‥‥
(母親、受話器の向こうでしばし沈黙)
‥‥ないよ」
息 子 : 「え」
母 親 : 「電話なんて、ない」
息 子 : 「いやいやいや! ナニ見てんだよ! ここだって!」
(息子、手にした攻略資料の写真を成歩堂ふうにたたく)
母 親 : 「ここってどこよ!」
息 子 : 「どこも何も、テーブルに置いてあるだろ! でっかい電話が!」
 


‥‥こんなやりとりが半年間、続いたんだって。

真 宵 :
ゲームの攻略以前のモンダイ、って感じだね。
成歩堂 :
これがキッカケで一家離散したってウワサもあるね。
真 宵 :
‥‥それはないって、なるほどくん。

 


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