とにかく、与えられた3ヶ月半をどう使うか、それを考えなければなりません。
各シナリオの執筆に、最低でも半月かかるとすれば、5話ぶんで2ヶ月半。
それを差し引くと、エピソードのプロットを考える時間は、1ヶ月。
‥‥そうなると、1話ぶんのプロットの構想に使える時間は、約1週間。
1週間に、1本。
ぼくにとっては、かなりシビアな条件でした。
プロットは、シナリオの‥‥『逆転裁判』の、まさに心臓部分です。
まず、1番大きくて重要な要素である、ミステリーとしての"趣向"、
その趣向を実現するために必要な"トリック"、
そのトリックを解き明かすための"手がかり" 、
その手がかりを散りばめるための"ストーリー" 、
そのストーリーを語るための"登場人物"‥‥
考えなければならないことは膨大で、それらの要素を1本のプロットにつなぐ作業もまた、地味で激しい作業でした。
‥‥1ヶ月後。
絶対ムリだと思っていたのですが、5本ぶんのプロットは、なんとか仕上がっていました。
そして、それから2ヶ月半。
絶対ムリだと思っていたのですが、5本のシナリオは無事、完成してしまいました。
"原作"ということで、小説に近い体裁で書かれた6冊ぶんの分厚いファイル。
ページ数にして1500ページの原稿‥‥
それが、この3ヶ月半の成果です。
プロット構想から執筆中、ぼくは毎日"シナリオ日誌"なるものを記していました。
今、それを読み返してみると、なかなか涙ぐましいものがあります。
集中して1つのプロットを考えていると、そのアイデアがおもしろいのかどうか、自分でわからなくなってきます。
強烈な不安と、あっという間に迫ってくる"締め切り"に心を切り刻まれていく様子が、断片的ですが、克明につづられていました。
最後まで続けられた原動力は‥‥意地と、『逆転裁判』が好きだったから‥‥なんでしょう。
ところで、最近よく、
『ああいう物語は、どうやって考えるの?』
と聞かれることがあります。
これはなかなか難しい質問で、たった1つの答えというものは存在しません。
それぞれのエピソードは、それぞれ違ったキッカケから、違った順序で発想が広がり、想像もしなかった経路をたどってゴールにたどりつくのです。
もう少ししたら、このコラムで、『逆転裁判2』の各エピソードについて、その裏側を紹介してみようと思います。
それまでに、みなさんもがんばって、すべての事件を解決しておいてくださいね。
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