■第6回: メテオ兄弟■

それでは、前回のつづきから始めましょう。
制作中、我々が直面した2つの大災害。
それはまさに"隕石級"と言って過言ではない巨大な破壊力をもって、単調になりがちな我々の日常に、強烈すぎる刺激を与えてくれたものです。‥‥しかも、2回。

最初の隕石は、制作開始直後、さっそく落っこちてきました。
いわゆる"御剣大人気事件"です。

御剣怜侍は前作『逆転裁判』で、ライバルの天才検事として颯爽と登場しました。
実は今回『逆転裁判2』のシナリオを書いたときも、最初はこの御剣が検事として法廷に立っていたのです。
‥‥しかし。
『逆転裁判』が発売されて、遊んでくれた皆さんからの反響が届いてみると‥‥この男、異様に人気が高い。
それはそれでよかったのですが、ここに1つだけ、問題が。

御剣が、主人公である成歩堂と闘う以上、彼に勝ち目はありません。
当然、連戦連敗。どこがどう天才検事なのか、わからないありさま。
シナリオの執筆当時から"ちょっとカワイソウだよなあ"と感じてはいました。
それが、ここへ来て決定的な危機感に。

"御剣をもっと大切にしよう"
その結果、新たな検事として狩魔 冥が生まれたわけです。
おかげでシナリオはほとんど書き直すハメに。
‥‥まあ、これは結果的に正解でした。狩魔 冥はぼくにとって、いろんな意味で今回、イチバンの収穫でしたから。

2個目の隕石が落っこちてきたのは、3つ目のエピソードを作っていた頃でした。
いわゆる"圧倒的容量不足事件"です。

「巧さん、大変です!」
ある日、プログラマーが青い顔をして詰め寄ってきました。
どんなに楽天的な人間でも、あのときの彼の顔色から良いニュースを期待することは不可能でした。

‥‥ロムカートリッジの容量が足りない!
ゲームのカートリッジには当然、詰め込めるシナリオの量に限界があります。
どうやら我々が思い描いていた見積もりは、かなりアマかったようでした。

急遽、1話ぶん削ることに。これには目の前が真っ暗になりました。
せっかく書いたシナリオを削ることもショックでしたが、何より、それによって物語全体の構成が致命的に破壊されてしまったからです。
おかげでまた、シナリオ全般にわたって伏線の張り直しをするハメに。
‥‥まあ、これも結果的に正解でした。もう1話あったら、きっと長すぎて投げ出す人が続出したでしょう。

さて。
今、こうして振り返ってみると、1つの疑問が。
『死ぬ思いで書いた、あの"原作"版のシナリオって、イミあったのか‥‥? 』

‥‥考えないことにしよう。



■第6回《裏》■

メテオ兄弟


御剣怜侍は前作『逆転裁判』で、ライバルの天才検事として颯爽と登場しました。
実は今回『逆転裁判2』のシナリオを書いたときも、最初はこの御剣が検事として法廷に立っていたのです。

真 宵 :
すごいよねえ、みつるぎ検事。
成歩堂 :
まあね。
真 宵 :
あたしの次に人気あるもん。
成歩堂 :
え。真宵ちゃんの? ‥‥じゃあ、ぼくは?
真 宵 :
なるほどくんの人気なんて、大したことないんじゃないかな。
成歩堂 :
ううう‥‥。御剣のどこがいいんだよ。
真 宵 :
やっぱり、あのエリもとのふりふりがグッと来るよねー。カワイイし。
成歩堂 :
それにしてもタクシュー、最初のシナリオじゃかなりテキトーに扱ってたんだよ、御剣のコト。
真 宵 :
そうなの?
成歩堂 :
ここに原作のシナリオがあるんだけどさ。御剣の話が初めて出てくるところを引用してみようか。

イトノコ: 「アンタには、ニュースが2つあるッス」
成歩堂 : 「ニュース‥‥?」
イトノコ: 「1つはよくないニュース。もう1つは、もっとよくないニュース。
 どっちを先に聞きたいッス?」
成歩堂 : 「‥‥どっちでもいいです」
イトノコ: 「明日の法廷は、あの御剣検事が担当するッス」
成歩堂 : 「な‥‥なんだって! アイツ、心の中に迷いが生まれたって言って、山にこもっていたんじゃあ‥‥」
イトノコ: 「それが、もう1つのワルいニュースッス。御剣検事は、山の中で、ついに悟りを開いたッス!」
成歩堂 : 「‥‥え」
イトノコ: 「今は検察局で、"異議あり!"の指の角度を微調整してるッス」

真 宵 :
‥‥山で何してたんだろ、みつるぎ検事‥‥。

‥‥その結果、新たな検事として狩魔 冥が生まれたわけです。
おかげでシナリオはほとんど組み直すハメに。


成歩堂 :
あのムチは反則だよな。いろんなイミで。
真 宵 :
あたしなんてさ、キゼツしちゃったもん。思いっきりひっぱたかれて。
成歩堂 :
まあ、イチバンたたかれたのは、実は裁判長なんだけどね。
真 宵 :
へええ。元気イッパイだねー、裁判長さん。
成歩堂 :
"冥"って名前だから、みんな『狩魔検事の姪だ』って思ってたらしいよ。
真 宵 :
そりゃそうだよ。タクシューのネーミングって安易だもんねー。
成歩堂 :
本人はそれを聞いて怒ってたみたいだけどね。『オレはダジャレで名前はつけない!』って
真 宵 :
うーん‥‥。たしかに、よく考えるとダジャレはないのかな、名前。
‥‥ヘンなのばっかりだけど。
成歩堂 :
いやいやいや。今回、警察官がいただろ? 彼、"町尾 守(まちおまもる)"だぞ。
真 宵 :
あ、ホントだ! やっぱりウソつきだ、タクシュー。
成歩堂 :
もしかしたら、自分のやったことをゼンブ、忘れてるのかもしれないけど。
真 宵 :
‥‥ありそうだね、それ。

「巧さん、大変です!」
ある日、プログラマーが青い顔をして詰め寄ってきました。


成歩堂 :
これには裏話があってさ。
真 宵 :
へえ! なに? なに?
成歩堂 :
実は最初、これってプログラマーの容量計算ミスだったんだよ。
真 宵 :
計算ミス‥‥?
 
プログラマ:
「巧さん! 今のままじゃ、ゼンゼン収まりませんよ!」
タクミ :
「じゃあ‥‥まるまる1話、削るしかないんですか?」
プログラマ:
「それどころじゃありませんよ!」
タクミ :
「え」
プログラマ:
「もっと抜本的に削らないと!」
タクミ :
「じゃ、じゃあ2話削るんですか!」
プログラマ:
「それならなんとか、収まる可能性がなきにしもあらず」
タクミ :
「真宵に再会したら、次がもう最終話じゃないですか!」
プログラマ:
「そういう話がなきにしもあらず」
 
 
成歩堂 :
‥‥ケッキョク、約1話ぶん、計算ミスがあったみたいだね。
真 宵 :
はあ‥‥。それはまた、大胆不敵な間違いだねえ。
成歩堂 :
まあ結果的には、この計算ミスに助けられたらしいんだけど。
真 宵 :
どういうこと?
成歩堂 :
早めに"これはヤバい"ってわかったから、キズが浅いうちに対処できたんだって。
真 宵 :
ケガの功名、ってヤツかな。
成歩堂 :
さすがに"2話ぶん削れ"って宣告されたときは、シャレにならなかった
みたいだけど。タクシューも。
真 宵 :
そのときばかりは、お得意のダジャレも出てこなかったワケだね。
タクミ :
だから、ダジャレはキライだ!
真 宵 :
‥‥? 何か聞こえなかった? なるほどくん。
成歩堂 :
さあね。気のせいじゃないかな。


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