『逆転裁判2』の制作状況は、正直なところ、かなり厳しいものでした。
これからしばらく、そのお話をしていこうと思います。
『2』の制作‥‥それは、いきなりクライマックスから始まったのです。
今から、約1年前。
前作『逆転裁判』の制作が終了して、ぼくは長期休暇をとりました。
休暇があけるころには、身も心もふやけきって、完璧な社会不適応者のできあがりです。
ひさしぶりに出社すると、さっそくプロデューサーからお呼びがかかりました。
「おはよう、巧くん」
‥‥この日から始まる数ヶ月こそが、ぼくにとって、逆転裁判史上最大の修羅場でした。
「実作業に入る前に、まず、シナリオを全部、書いちゃってほしいんだけど」
これが、ふやけきった社会不適応者に対する、プロデューサー流の朝のアイサツでした。
「いきなりゼンブってのは、ムリじゃないかな‥‥」
「ダメ。ゼンブ」
前回は、制作の進行に合わせて物語を考えていたのですが、今回はいろいろ事情があって、どうしても最初にそろえる必要があったのです。
「うう‥‥じゃあ、しかたないか」
「じゃ、たのんだ。全5話ぶん。期間は3ヶ月半ね」
「‥‥え!」
これが、ふやけきった社会不適応者に対する、プロデューサー流の殺し文句でした。
‥‥3ヶ月半? それに、さりげなく前作より1話、増えてるし‥‥。
絶対、ムリ。
ここは断固、抗議しなければなりません。‥‥人生、時にはムダも必要なのです。
もちろん、抗議はフットワークの軽い笑顔で、軽やかに鮮やかにかわされました。
‥‥とにかく、やってみるしかないみたいだ‥‥。
そう思った瞬間、頭の中に、映画“ミッション・インポッシブル”のテーマが鳴り出しました。
席に戻り、とりあえず、スケジュールを立ててみます。
前作では、1本のエピソードの執筆に、平均1ヶ月以上かかっていました。
‥‥この時点で、すでに時間が足りません。
しかも今回は、トリックはおろか、ストーリーのカケラすら存在しない。
さらに重要なことに、この時点でぼくは、休暇あけでふやけきった哀れな社会不適応者にすぎず、まずは社会復帰から始めなければならない状況だったのです。
まさに、修羅場。
‥‥そして、3ヶ月後。
シナリオはどうなったかというと‥‥続きはまた、次回。
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